本来このブログは「言葉」を使ったお話をしているのですが、今回は番外編として、人間が物を見る仕組みについてお話しします。
人間はなぜ物を見ることができるのか?
それは極めて単純で、目に光が入ってくるからです。
この光を脳が認識しています。
では、机の上にカードがあるとします。この場合はどうなるかというと、
こうなります。
つまり、カードで反射した光を見ているわけです。
さて、人間の目に入ってきた光はいったいどうやって認識されるかというと、大まかにいって、2つの器官によって認識されます。それは、桿体(かんたい)と、錘体(すいたい)です。
:桿体
桿体(かんたい)は、明るさを認識する器官です。片方の網膜に1億2000万ほどあるそうです。桿体(かんたい)は明るさしか認識できず、色は識別できません。
:錘体
錘体(すいたい)は人間の場合3種類存在し、赤錘体、緑錘体、青錘体と呼ばれ、それぞれれ■赤、■緑、■青の波長域の光のみ認識できます。桿体(かんたい)と同様に網膜に存在し、その数は650万ほどで、桿体(かんたい)に比べて圧倒的に少ないため、光が弱いと認識率が下がります。暗闇では物の陰影はわかるけれど、色はあまり分からなくなるのはこのためです。
みなさんは、「光の三原色(色光の三原色)」というのを聞いたことがあるでしょうか? RGBという言葉の方がわかりやすいかもしれません。RED、GREEN、BLUEの三色は光の三原色と呼ばれるのですが、これは、上記の錘体(すいたい)に由来するものなのです。
物質の根源を示す概念に「元素」というものがありますが、元素はなにがあろうと元素で変わりありません。ですが、原色は人間だけの概念であって、他の動物にとっては、つまり、別の錘体組織を持つ動物にとっては原色ではなくなります。
人間は太陽光の下で生活する過程で、この錘体(すいたい)器官を発達させました。
太陽光があるのがあたりまえの環境で発達したわけです。
あたりまえなので、それが基準であり、つまり、太陽光そのものには色を感じなくなっています。
これが人間にとっては、「白」という概念になっています。
ところで、太陽光にはものすごく沢山の種類の波長の光が含まれているのですが、なにかの具合で、このうちのいくらかが欠落することがあります。
この光が人間の目に入ったとき、はじめて人間は「色」を感じるのです。
元の光は太陽光なので、あらゆる波長を含んだ「白色光」です。ところが、カードでこの光が反射する段階で、いくつかの波長の光がカードに当たったときに吸収され(熱エネルギーに変換されます)欠落します。
このため、赤いカードにみえたり、青いカードにみえたり、柄のカードにみえたりするわけです。
また、人間の脳は面白い認識機能を持っています。
みてのとおり、赤い水玉模様です。
これを縮小してみます。
ちょっとパターンの境目の格子がでてしまっていますが、ほぼ、ピンクにみえるるのではないでしょうか?
赤の面積は大体40%程度なので、元の赤の40%の矩形と比べて見ましょう。
だいたい同じに見えますね。
このように、人間の目は、極めて小さな面積の中にある光は、その平均の波長が目に入ったのと同じように認識する仕組みになっているのです。
この2つの機能、【3つの錘体(すいたい)】【平均として認識する】を応用した技術があります。
それが、商業印刷なのです。
商業印刷では通常、4つのインキを使って印刷を行います。
■シアン、■マゼンタ、■イエロー、■ブラックの4色です。
なぜこの4色なのでしょうか?
これを見てください。
背景は黒、つまり、光が全く当たっていない状態です。
ここに、赤、緑、青の光の三原色をちょっとずつずらして照射しました。結果がこれです。
中央は、赤、緑、青が全て当たっているので、太陽光と同じになり、白になります。
注目して欲しいのはその外側の2つの光が交差する部分です。ここに、先ほどのシアン、マゼンタ、イエローの3色があることが分かるでしょうか?
緑と青の光が当たると■シアンに、赤と青の光が当たると■マゼンタに、赤と緑が当たると■イエローになるわけです。
今、机の上に■シアンに見えるカードがあるとします。思い出してください。太陽光は、あらゆる波長の光を含んでいます。
そして、人間の目には、その光がカードに当たって一部の波長の光が熱エネルギーに変換されて吸収され、残りの光が反射して、人間の目に入って■シアンだと認識されています。
では、吸収されて欠落した波長の光は、なんでしょうか?
上図の■シアンの部分に当たっていない光、つまり■赤となります。
同様に、■マゼンタは■緑が欠落、■イエローは■青が欠落した結果、そのように、見えることになります。
つまり、インキの■シアンとは白色光から■赤の波長域の光のみを吸収する色、■マゼンタは■緑のみ、■イエローは■青のみを吸収する色ということなのです。
商業印刷というのは、この性質を利用しているのです。
この、■シアン、■マゼンタ、■イエローを「光の三原色」に対して「色の三原色(色料の三原色)」と呼びます。
例えば、■シアンのインキと■マゼンタのインキを等量混合したとします。シアンは赤を吸収し、マゼンタは緑を吸収するので、ここから反射されて出てくる光は■青だけになります。つまり、■シアンと■マゼンタのインキをあわせると、■青として認識されるのです。
光の三原色では、光の量を増やすことで認識する色が変化して最終的には白になるのに対し、色の三原色では、光の量がどんどん減っていき(吸収されていき)残った光を認識することで色を認識し、最終的には黒になる(目に届く光がなくなる)というわけです。
このため、光の三原色は「加色混合(色を加えていく混合)」、色の三原色は「減色混合(色を減らしていく混合)」と呼ばれます。
さて、色の三原色はわかりましたが、では、なぜ■ブラックが存在するのでしょうか?
■シアン、■マゼンタ、■イエローを適量混ぜれば出てくる光がなくなって黒になるはずでは?
確かに、光は物体に当たった時、一部が熱エネルギーに変換されて吸収されます。
しかし光を完全に吸収してしまうことはありえません。色の三原色は元々、特定の色域以外は反射する性質なので、混ぜ合わせても、同様に反射されて出てきてしまう光があります。
ですから、■シアン、■マゼンタ、■イエローを適量混ぜても全ての光を吸収することはありません。わずかな光が反射されてくるので、大体、深い茶色にしかなりません。
そんなわけで、ほとんど反射されてくる光がない、完全な黒と認識できるインキを別途用意する必要があるのです。これが、■ブラックインキの存在理由です。
この■ブラックインキは、人間が色を認識できる理由である錘体(すいたい)のメカニズムから導き出されたわけではなく、色の三原色■シアン、■マゼンタ、■イエローの存在理由とは全く別の概念で導入されているわけです。
また、色の三原色■シアン、■マゼンタ、■イエローですが、たとえば■シアンの場合、■赤だけ吸収するかというとそういうわけでもなく、■緑や■青もわずかに吸収されて熱エネルギーに変換されます。
ですので、■シアンと■マゼンタでつくった■青は■青色の光と等価かというとそんなことはなく、混色した■青の方が暗く見えます。これは色料の混色全てにおいていえることで、色料の混色で表現できる色域は、色光の混色で表現できる色域よりも、ずっと狭いものになってしまいます。
想像していただけるとわかるのですが、蛍光色というのは色料の混色ではなかなか表現できません。蛍光色は、沢山の光が反射されなければなりませんが、物体に当たった激しい光の多くは吸収されて弱くなってしまいます。
ですから、蛍光色を表現するためにはインキ自体を反射率の高いものにする必要があります。
このため、特色(とくしょく)と呼ばれる、その色の表現に特化した、特別なインキを用いることが必要なるわけです。
家庭用プリンタでは、■シアン、■マゼンタ、■イエロー、■ブラックのほかに、ライトシアン、ライトマゼンタといったインキを別途使うことが多くなっています。
これは、より光の反射率の高い■シアン、■マゼンタを使うことで、表現できる色域を広げる狙いがあります。
こうした概念に加えて、前に説明した、「極めて小さな面積の中にある光は、その平均の波長が目に入ったのと同じように認識する仕組み」をあわせることで、反射されて出てくる光をコントロールして多彩な色を表現しているのが商業印刷なのです。
商業印刷はものすごく大雑把に言うと、とても大掛かりなハンコです。
ハンコには色の濃淡はありません。インキのついた部分が紙に転写され、ついていない部分は転写されません。
ですが、このインキのつく部分を極めて小さな点の集合にして、単位面積あたりのその比率を変化させることで、人間の目で認識できる色をコントロールしています。
みなさんが見ている印刷物は、こうした、極めて単純で人間の器質に由来する技術に基づいて作り出されているのです。
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