ページ

2012年11月11日日曜日

ご質問です!~お前たち私の疑問にこたえなさい


タイトル:ご質問です!
投稿者:たかくん 
こんにちは。初めて投稿します。
今、LightWaveを使っているのですが、グラフィックカードについてホニャララ…


インターネットを利用していれば、大抵は質問&回答型の掲示板を見たことがあると思いますが、そういった掲示板でよく目にするのが、上記のような投稿です。

これに出会う頻度はびっくりするほど多く、そのたびに呆れ果てるのですが、なかなか慣れません。

最初の頃はこういった質問に出会うとその間違いを指摘していましたが、こういう投稿をする人は大抵精神構造が幼稚なので(だからこういう投稿をしてしまうのです)、素直に自分の非を認められず、多くの場合逆切れするのでだんだんめんどくさくなり、その質問にかかわりあいになることそのものをやめてしまいました。

「たかくん」はハンドルネームから推測できるとおり、まだ若いのでしょうね。質問内容を考慮すると小中学生ということはなさそうですが、10代後半から20代前半くらいかと思われます。

たかくんでも、人に教えを請うときには「敬語」を使わなければならない、ということは理解しているようで、その結果が、

タイトル:ご質問です!

となったわけです。

これがとても無礼な発言であるということを認識できない人は多いようです。


敬語が使えない若者が増えているようですが、「俺は誰にも媚びねぇ」とか「敬語みたいな形式的で古臭い風習は廃止すべき」とか信念があるのかと思うとそうでもなく、もちろん、中にはそういう反骨の精神の方もいるでしょうがそれは少数で、多くの場合、単純に敬語の仕組みが理解できないだけのようです。


たかくんは、たかくんなりに誠意を持って質問しようとしたのかもしれませんが、それをきちんと表せなかったらなんの意味もありません。なんの意味もないどころか、表現の仕方を間違えたために意図していない全く別の意味になってしまっています。



「お」「ご」をつけると丁寧な表現になることは誰でもわかると思われます。たかくんでもそれは分かったのですから。

ここで考えなければいけないのは、「お」「ご」をつけたのが「誰の物」であるかです。

「質問」は、たかくんが困ってするので、たかくんの物です。誰から求められたわけでもなく、たかくんが自分自身のために他者に提示するものです。ですからその質問に「お」「ご」をつけると、たかくん自身を敬っていることになります。つまりタイトルの本質的意味はこうです。

タイトル:私が貴重な質問をしてやるので、お前たちはそれに答えなさい

無礼ですよね。

「ネタなのかな?」といぶかしんだりもします。でも、指摘すると本気になって怒り出すので、「ああ、やっぱりネタじゃなかったのか」と、落胆することになります。場合によっては別の人がでてきて、「え? 普通に言いますよね?」とか言い始めます。本当にあった、笑えない話です…

なぜこういう無礼な表現を多くの人が平気で使ってしまうかなのですが、そこにはちょっと変わった謙譲表現の存在が大きく関わっています。

私がご質問します内容につきましては、以上のようになりますが…

「ご質問です」が無礼なら、これも無礼だろ!と思いがちですが、これは正常な敬語表現です。それで多くの人が、「???」となってしまうのだと思います。

この2つの決定的な違いは、「ご質問です」と「ご質問します」の違いです。

なんと敬語では、「お」「ご」+○○+「する」という決まった形をとる場合に、それを謙譲表現としているのです。(念のため補足すると、謙譲表現というのは自分をあえて下げることで相手を相対的に上にもってくる表現のことです)

ですから、「ご質問します」といった場合には、

私のような者が、大変失礼ながら質問させていただきます

という意味になるのです。

なぜこんなややこしいことになってしまっているのか不思議ですが、そうなっているので仕方ありません。

ただ、「お」「ご」+○○+「する」が、必ず謙譲表現として受け取られ、適切な敬語として認識されるかというと必ずしもそうではありません。

このたび、わたしたちはご結婚することになりました

まぁ、ご祝儀なんかビタ一文払いたくなくなりますよね。

「お」「ご」をつける行為が一方的に発言者のもので相手には何の関係もない場合は謙譲表現としては受け取られないようです。


ですから、例えば

タイトル:ご質問します!

であっても、謙譲表現として適切かというとそうではないことになります。質問は質問者が利己的に勝手に投げるものなので、確かに文法上は謙譲表現ではあるが、敬意を表していると受け取られるかというとその可能性はわりと低い、となります。

そこで不安になって、「する」の謙譲語である「いたす」を使ってあえて二重敬語にし「ご質問いたします」と言ってみたり、もっとへりくだって「ご質問させてください」とか言ってみたり、さらにこびへつらって「ご質問させていただきます」あたりまで行ってしまって、もはや、おまえ俺のことバカにしてるのか?とすら思う文章になることもそう珍しくはなかったりします。

二重敬語自体が慇懃無礼(【いんぎんぶれい】見かけは礼儀正しいようだが、その実は無礼なこと。例:私みたいな凡人には、あなた様のような方のお考えになることは理解できかねますね)としてとらえられる側面があるので、よくわからずに敬語を使うくらいなら、率直な言葉で

タイトル:教えてください(>_<

の方が、よっぽど教えてあげようという気になる場合が多いことも理解しましょう。



なお、ものすごく有名な例ですが、「お見積り」については同様の理由で、逆に適切な敬語として受け取られる可能性が極めて高くなります。見積もりを行うのは見積り書をつくる側なので、作った張本人が自分の作った物に「お」「ご」をつけるのは自分自身を敬うことになって、正常な敬語の観点から考えると、やはり無礼です。

しかし、見積り書というのはそれを渡す相手のために作られる側面が極めて大きく、作った側ではなく、渡された側の所有物であるという認識が通念としてあります。

ですから現代社会において「お見積り」と書いても、「この無礼なクソ業者が!」と怒り出す人は、まぁ1000人いたら1人いるかな?くらいの少数だと思われます。

「ご祝儀」についてはもはや、100%完全に相手のために渡されるものなので相手の所有物であり、払うのが自分であってもこれを無礼だと感じる人はまずいないでしょう。

敬語を使いたいときには、その物や行為が誰のものであるかを考慮すると良いようです。

「入金をご確認しました」 
「ご入金を確認しました」

入金してくれたのは相手です。確認したのは自分です。

相手を持ち上げるため、相手の行為に「お」「ご」を付け、自分の行為にはつけません。ですから、正しいのは「ご入金を確認しました」になります。通常はさらに、自分を下げます。前述したとおり、謙譲表現をつかいます。「する」の謙譲表現は「いたす」なので、

「ご入金を確認いたしました」

となるわけです。二重敬語になる上、行為の所有権的観点から自分を敬っているととられる可能性が高いので、間違っても「ご入金をご確認いたしました」とは言わないでください。
(ちなみに上記の例は、とある掲示板に投稿されていたもので「入金をご確認しました」と言った方が実際にいるようです)


敬語なんて、そんな難しいものではないんです。TV番組でやっている「MAX敬語にしましょう」みたいなことになるとかなりの勉強が必要になってくるのですが、日常生活に差しさわりの無い程度の敬語であれば、ごくわずかな「公式」を覚えるだけで事足りるのです。




ところで、前職の地方出版社時代の話ですが、編集の人がとった電話を何気なく聞いていたら

「わかりました。○○にお伝えします」

と言い放ったのでズッコケたことがあります。(○○は、社員の名前)

それで、あくまでも穏やかに「お伝えしますは、○○を敬うことになって失礼だよ。『申し伝えます』だからね」と教えてあげたのですが、夕方になってその編集の人に

「わたし調べたんですけど、『お伝えします』でいいと思うんですけど。言語学の友達にも聞いてみたんです。Luckerさん、調べてみて(ニコッ

と言われてブチ切れたことがあります。

本当に、ロクな編集者がいない会社でした。そりゃ辞めますよね…






分からない人のためにあえて補足しますが、上で書いたとおり「お」「ご」+○○+「する」は謙譲表現ですので、

その件に関しては、明日お伝えしますのでお待ちください

と言った場合は相手に対して敬意を表していることになります。省略されていますが伝える対象が「あなた」であるからです。

しかし、先ほどの電話の場合は、

その件を、○○にお伝えします

なので、伝える対象は○○なことから謙譲表現は○○に対してであり、敬っているのは○○です。これは社会の一般常識なのですが、自分の身内のことを相手に話すときには相手よりも上にもってきてはいけません。たとえ○○が上司であろうと呼び捨てにします。


ですから、「○○にお伝えします」などと言うと、

わが社の有能な社員である○○様にお伝えしておいてやるよ、お前みたいな奴のためにな

という意味になるわけです。注意しましょう。

(本当は、「~やるよ、お前みたいな奴のためにな」という意味はありません。ちょっと話を盛っていますのでご注意を。詳しくはこちらの説明がわかりやすいかと思います。 http://okwave.jp/qa/q1049083.html




はい、これでこの話は終了と思いきや、もうちょっと続きます。この記事を読みながらもやもやしていた方は、「ご質問です!再び~おまえ、元気すぎるだろ!」(http://dracul-dormea.blogspot.jp/2012/11/blog-post_12.html)もご覧になってください。




※なお、たかくんはこの記事を書くにあたって便宜的に創造したキャラクタであり、現実に存在する多数のたかくんとは全く関係ありません。




0 件のコメント:

コメントを投稿